コラムあるいは雑文

『無印』での祥子さまの気持ち    - 04/11/07 -

今回は、初心に返って(笑)『無印(初巻)』での祥子さまの気持ち(心理)に注目してみます。
祥子さまの本音は、祐巳への告白としてしか表現されていないので、それ以外のところでの本当の気持ちは想像するしかありません。
「マリみてTT」らしく(笑)時系列にそって、まずここから・・・
祥子さまは柏木さんに婚約することの本意を告げられるが、祥子さまは問題に立ち向かえずに先送りしてしまう。
「全面的に柏木が悪い!」というのがほとんどの読者の共通認識だと思いますが、柏木さん本人にしてみれば「お互い損の無い話で、断る理由など無いはずだ」と本気で思っているわけです(ホント、やなヤツだ)。
でも、祥子さまは祐巳に同じことをしてしまいます。
薔薇の館で、祥子さまは祐巳をスール宣言するが、祐巳に断られる。
祥子さまにしてみれば、「お互い損の無い話、断る理由なんてないはず」と思っていたわけです。
ちょっと前に、志摩子さんに断られたとは言え、「ごく普通の一般生徒が紅薔薇のつぼみからのスールの申し出を断れるはずはない」と、祥子さまも(他の皆さまも)思っていたでしょう。
ですが、祐巳は断ってしまいます(祥子さま大ショック!)。
祥子さまはなぜ断られたか、この時点では理解できていません。「見たところ、嫌われるどころか慕われているようなのに、なぜ?」という心境です。
この時点で、祥子さまが祐巳をどう思っていたかは、本当のところ本人にもわかっていなかったと思います。それよりもなによりも「シンデレラ」の問題をなんとかしなければならない状況だった。
そして物語は進み・・・
温室で、祥子さまは祐巳に「ロザリオを下さい」と言われるが、断る。
祥子さまは、このときになって初めて「薔薇の館で祐巳に断られた理由」を悟ったのだと思います。
このときの祐巳からの申し出「ロザリオを下さい」は、100%祥子さまを想っての言葉(祐巳にとっては損ばかり)であることを、祥子さまは理解しましたが、同時に「スールになりたいという気持ちから出た言葉ではない」ことにも気付いてしまいます。そして、そこから自分が「薔薇の館で祐巳に対して『柏木さんが祥子さまにしたこと』と同じことをしてしまっていたこと」に気付きます。
1年半前の自分が逃げてうやむやにしてしまったのに対して、あのときの祐巳は状況に流されず立ち向かい、そして今度は自分を助けようとまでしてくれている。
このとき祥子さまが祐巳から受け取ったのは「立ち向かわなければならない」という勇気です。ここで、祐巳の助け船に乗ってしまえば一時は楽ですが、結局は後で後悔する・・・今度こそ、立ち向かわなければならない。
覚悟さえ出来てしまえば、もう、勝負には勝ったようなもの。祐巳と祥子さまが(気持ちの面で)スールになったのはこのときからだと思います。
後夜祭で、祥子さまは祐巳に「これ、祐巳の首にかけてもいい?」・・・
このときの祥子さまは、祐巳に対する感謝の気持ちを素直に表現しています。もし、祐巳が「平凡な生活に戻ること」を望むなら(残念ではあるけれど)それでも良いと思っていると思います。
ただ、「私は祐巳とスールになりたい」という気持ちに「祐巳が応えてくれたら嬉しい」という気持ちでの申し込みだったと思います。

とまあ、祥子さまの気持ち中心に深読みしてみました。
(11/08:文章を一部修正しました。内容自体は変わっていません)
2004/11/07 09:06:08〔投稿者:いわし〕
なるほどなるほどー。柏木の件と重なるとは気付きませんでした。祥子さまは確かに体育館ダンス後の王子初登場の日にはまだロザリオを「賭けとか同情」でもらってもらおうとしてますものね。
2004/11/10 17:08:53〔投稿者:バルミラ〕
 はじめまして。中々面白そうな事をやっているので少し寄せてもらいます。第1巻の「祥子は自分が優にされて(泣くほど)嫌だった事を、無意識的に祐巳にやってしまっ(て泣かせ)た」という構図は読者の間でどのくらい認知されているのでしょうか。この事はシリーズを通して祥子というキャラを考える上で外せない事だと思うんですが。例えば「涼風さつさつ」で祥子が可南子に対していった事は、祥子自身にも帰ってくる事だと思います。彼女も自分の理想どおりの人ではなかったという理由で優を拒絶しています。逆に自分と重なるから可南子に怒りを覚えたのでしょう。そう言う部分が全然ない祐巳は戸惑うだけでしたから。ちなみに優と祥子のどちらが悪いとは現時点では言えないと思います。そもそも優の言った事が本当かどうかも怪しいものです。彼は本当は同性愛者でなく、未熟な祥子の為にわざと嫌われ役をやっている可能性もありますから。
2004/11/10 18:16:37〔投稿者:朱夏〕
なんとここにも、柏木擁護者が!>パルミラ様 「マリみて」ファン全員を敵に回して、「負けるな柏木同盟」でも作りますか。(笑) 考えてみれば、その生い立ちに難しい問題を抱えているのは、祥子だけでなく柏木も同じです。現在の小笠原の総帥は、きっと跡継ぎには祥子を考えているでしょう。しかし、その婚約者を送り出す柏木家の方では、全く違う思惑があるはずです。こんな環境で育った優は、幼くしてすでにコンツェルンのトップに立つ事を期待され、誰もがうらやむ美少女の許嫁がいる身分です。そんな優が、どうやって自分のアイデンティティーを表現したら良いのでしょう? とりあえず美しい婚約者に、「屁の突っ張り」で、「女に興味がない」ぐらい言ってみるしかなかったかも知れません。(そこがまた、柏木の馬鹿なところですが。) 「子羊たちの休暇」197p、西園寺家のパーティーでの柏木の言葉、「この場をぶっ壊してやろうか」はそんな彼の一面を見た気がします。私は、祥子にもっと心のゆとりが出来れば、柏木とは必ず和解できるはずだと信じています。<管理人様:趣旨違いのレスで、ごめんなさい。
2004/11/11 00:34:25〔投稿者:kuro〕
10/16 のコラムのでの私の何気ないコメントを受けてとの事ですみません。物議を醸し出してる張本人としては一応コメントをしておかねばという事で来ました(呼んでないって?)。とりあえず全体を通しての私個人の推察としては、(1)まず祐巳がロザリオを受け取らなかった事は祥子が祐巳に興味を持つ最初の接点だった。(2)祐巳の祥子に対する気持ちも、小笠原祥子という「人間」と直接触れ合う事・祥子の問題に深く関わる事で変化、或は成長していった。(3)最後の温室のシーンに於いては、祐巳のそういう部分もひっくるめて祥子はより深い所で自分にとっての祐巳という存在を認めていた。・・・ポイントだけをごく簡単にかいつまんで端的に言うとこの3点です。
2004/11/11 00:37:38〔投稿者:kuro〕
私も最初はワトソンさんとほぼ同じ見方で「無印」を捉えてましたが、一見ブラックボックスに見える祥子の気持や心の動きをシーン毎に細かくピックアップして繋げて行くと、実は二人の心のやりとりっていうのが呼応する様な感じで結構細かく動きながら物語が進行しているのが見えてくる感じがします。「無印」自体、基本的には「今野版シンデレラ物語+α」的な捉え方ができると思いますが、良く読むともう少し濃厚な人間のドラマが浮き上がって出て来る、ちょっと大袈裟に言うと「あぶり出し」みたいになってるんじゃないかと・・・。まあ単なるヨタ話と思って軽く聞き流して下さい。(本人の希望により一部編集:管理人)
2004/11/11 05:12:37〔投稿者:管理人〕
ようこそ、バルミラさま。
>「祥子は(中略)」という構図は読者の間でどのくらい認知されている
私としても、これは「深読み」の部類に入ると思うので、認知されているとは言えないと思います。
ただ、突飛だとも思いませんし、曲解でもないと思っています。
祥子さまは、このあと祐巳の影響をたくさんうけていきますが、この「無印」の祥子さまを、私は「祐巳の影響を受ける前の祥子さま」ととらえています。温室の件が最初の(大きな)影響です。祥子さま視点がほとんどないので、それが分かりにくいだけで、心のうちは(巻が進むにごとに大きく)変化しているものと考えています。
2004/11/18 16:31:53〔投稿者:くりくりまろん〕
祥子は祐巳の前に現れたときから、決して冷たいばかりの人ではないことは分かるけれどもあえて言うならば読者にとって「訝しいところのある人」なんですねぇ。祐巳を一方的に「妹」にしようとしたり、わざわざ銀杏の木のところまで追いかけに来たり。祐巳の祥子に対する興味と読者のそれは違うものなんだろうけれども、以後延々と祥子に対する興味というのは持続されてゆくように描かれていると思います。
コラムの趣旨から少し逸れるかもしれませんが、一方の祐巳は温室の場面では祥子の気持ちをたちまち了解しながらも、自分が祥子にしてあげたことには無自覚なままロザリオをもらっています。この無自覚さは祐巳の特徴として徹底していて、「特別でないただの一日」に至っても瞳子に対してしてあげたことにも全くの無自覚。その無自覚さが「レイニーブルー」の遠因の一つだったのではと思います。現在の祐巳は祥子に充分に受け入れられていると感じているのでしょう。しかし祥子が祐巳に影響を受けていることについては、祐巳はもしかすると全く知らないのかもしれませんね。
2004/11/19 04:04:12〔投稿者:管理人〕
音楽室での連弾、体育館でのふたりだけのダンス、どちらも祥子さまにとって「とても楽しい出来事」だったのですが、このときはまだ、祐巳は「賭けの対象」でもあったので祥子さまは自分の気持ちの気付いていません。
温室で「同情」でロザリオを望まれた時「ぜんぜん嬉しくない」と感じたことで、「私はこんなにも祐巳が好きだったのだ」と自覚したんだと思います。
祐巳の「無自覚」は大きな特徴だと思いますが、もうひとつ、「自分の勘をまったく信用していない」ということがあります。レイニーのとき「祥子さまに嫌われてた」などと考えるのも、「好かれているはず」という自分の感覚を信用していないので、自信が持てなかったからでは。
実は、祐巳は「とっても勘が鋭い」のです。ただ、それを本人は信用していない。だから「瞳子ちゃんに好かれているかも」という勘はビシビシ感じているのだけれど「そんなわけないじゃん、瞳子ちゃんが好きなのは祥子お姉さまのはず」と、無意識のうちに打ち消しているのではないかなと思います。
2004/11/20 10:37:54〔投稿者:kuro〕
なるほど今度はレイニー談義ですか、面白そうですね(笑)。『無印』における祐巳の祥子への想いは確かに真っ直ぐだったと言えると思いますが、しかしそこには自分に対する自身の無さやコンプレックスという感情も混じっていた事を見逃してはいけないと思います。その感情はレイニーに至る迄祐巳の中で居座り続け、形を変えていったのではないでしょうか。・・・自身が無いから不安になる、不安になるからただ離すまいと祥子にしがみつこうこうとする、しがみついているから周りが見えなくなるし自分も見えなくなる。ただしこれは祐巳だから特別という事ではなく、こういう負の感情のループというのには誰の身にも起こり得る事だとは思いますけどね(笑)。それよりも次巻『パラソル』で、そういう自分自身の姿と正面から向き合い自分自身を克服する事ができた祐巳に大きな拍手を送りたいと思います。
2004/11/20 10:39:44〔投稿者:kuro〕
一方祥子の方も、祐巳なら解ってくれる筈と、祐巳に完全に甘えてしまってる状態になってしまってた訳です。・・・そう、なかなかいい表現が見つかりませんでしたが、『無印』での祥子も祐巳に対してまさに「甘え」ていたという事なのだと思います。温室で祐巳がした提案は、逆に祥子に今自分がどんな顔をして祐巳の横で泣いているのかを見せてしまった・・何故なら(私の考察が正しいなら)祥子は祐巳が自分という人間に何を求め本当はどうして欲しいのかをよく知ってた筈ですから(p179〜のシーン.etc)・・・この話はもういいて?(笑)。まあ要するに祥子は『レイニー』に於いても全く同じ轍を踏んでいたのではないかと、私的には思う訳です。この時大切な物を失って初めて、祥子もまた自分自身を知り、それに対峙し、自分自身を責め続け、浮上する事もできないままあんなになってしまった・・・。たぶん祥子はこれ迄自分の目線からしか祐巳を見る事ができず、それで祐巳を理解したつもりになっていた。彼女はこの時初めて祐巳の目線まで降りていって祐巳を、自分を見ようとしたのではないでしょうか。
2004/11/20 10:40:21〔投稿者:kuro〕
この時の二人の関係は、ただお互い寄りかかり依存し合う様な、ある意味非常に危うい関係だったと言えるかもしれませんね。瞳子の事や祥子の祖母の事は単なるきっかけにすぎず、仮にそれがなくてもいずれは似た様な状況に陥っていたのではないかとも思います。しかしまさに『レイニー』、雨降って地固まる、試練を乗り越えた『子羊』での二人は非常に深い所でお互いを尊重し合い慈しむ様な、ある意味「理想的」とも言える様な強い絆を見せつけてくれています。祐巳と祥子の関係を描いた物語は、実は『子羊』をもって一旦完結してるのではないか等と自分的には考えたりしてます。・・・とまあ、これはあくまでkuro個人から見たレイニー考ですので、『無印』も含め結局は十人十色、その人その人の視点で読むのが一番だと思います。ただ、まあ世の中にはこういう読み方をしてる奴もいるよという事で見て頂ければと思う次第です。