重ねての投稿、ごめんなさい。
今回、いちばん感じたのは、祐巳と瞳子の明暗の差でした。
祐巳ちゃんは、基本的に煮え切らないうじうじと悩むことの多い性格ですが、ある極限を通り抜けると、突然すぽんと突き抜けてやおら逆転してみせる強さを持っています。
それは「パラソル」の巻でも見せてくれた祐巳ちゃんの強さであり、最大の長所です。
令さまは、「志摩子と由乃は静と動だからちょうどいい。(中略)そして、そこに祐巳ちゃんの緩衝材だ。」(p114)と言い切りました。しかし祐巳ちゃんの一番の価値は、仲間がどんなに落ち込んだ時でも、さりげなく発揮する最終防衛セーフティー機能。
今回の場合も、各所にその様子が見て取れました。特に、選挙結果発表直前の薔薇の館でのお弁当タイムはお見事でした。(p181〜183)明らかに祐巳ちゃんは既に、気持が吹っ切れている。
しかもそのきっかけを作ってくれたのが、瞳子ちゃんのお母さん(らしい人)のひと言であった訳で、弓子さんのアドバイスと言い、祐巳ちゃんは、「年長者のタイミングの良いひと言」に恵まれている。また、その祐巳ちゃんらしいポジティブさが見られたことが、「仮面のアクトレス」の巻、最大の成果だったと言えましょう。
それにしても、いくら生徒会長選挙のプレッシャーを比較するためとは言え、「祥子さまの妹は、自分以外いないという自信はある。」(p106)などと言い切るなんて、一年前からすると大違い。
これに比較して、瞳子ちゃんの暗さは読んでいて正直つらかった。
何というか、本来強烈なそのエネルギーを何処にも向けることが出来ず、ひたすら内向して行く姿が、光すら閉じこめて縮壊して行くブラックホールを見るようでした。
そう言う意味で、今回の瞳子ちゃんはまさしく「黒薔薇さま」。……ちなみに、黒バラは、バラの紅い色素が黒変して出来上がります。だから咲いた当初は、鮮やかな紅色なんです。これって、今の瞳子ちゃんの精神状態そのもの!
瞳子ちゃんの一連の行動は総て、過去の自分への「けじめ」の様に感じられます。
そう言えば去年の、蟹名静嬢の立候補もある意味、転校するために必要な彼女なりの「けじめ」だったと言えます。だとすれば瞳子ちゃんの行動は、ますますリリアンを離れようとしているとしか思えません。
さて、今回もう一つ思ったことがあります。
今野先生としては珍しく、極めて具体的に生徒会長選挙のシステムを解説していること。
しかも、立候補者三名の立ち会い演説内容がきちんと記述されていること。
つまり、それだけ祐巳ちゃん世代の薔薇さまが、現実的になってきた現れでしょうね。
祐巳ちゃん、由乃ちゃん、志摩子さんの仲間意識の再確認も、そのひとつです。
しかし、ここまで未来のビジョンをはっきり書かれてしまうと、逆に祥子さまの卒業で「マリみて」完結を予感してしまうのは、私だけの杞憂でしょうか。「06年マリみてキャンペーン」が、「店じまいキャンペーン」でないことを祈りたいです。
もっとも「新・マリア様がみてる」として、いきなり乃梨子世代の薔薇さま物語が始まるのならそれはそれで面白そう。
それにしても今回、乃梨子視点の多さが目に付きました。
既にあちこちで言われていることですが、乃梨子と瞳子の会話(p122〜126)からは、かつての蓉子と聖の関係を思い起こします。瞳子ちゃんの「マスタード・タラモ・サラダ・サンド」(p170)は、いかにもな感じ。
ただ、蓉子と乃梨子が違うのは、乃梨子ちゃんは「友達だったら何でも言わなければならないのかしら」(p124)と言われて、「正論だ。何も言い返せない」と考えて身を引いてしまうところ。
たぶん蓉子さまだったら、それでも引かなかったでしょう。だからこそ蓉子は、聖にひっぱたかれそうになり、避けようともしなかった。(「片手だけ繋いで」p174)
たとえ親友といえど、他人の事情には決して踏み入らない姿勢が、いかにも乃梨子らしい。
それとも、白薔薇と紅薔薇の違いと言うべきか・・・。
いずれ今回、「くもりガラス」の巻の柏木氏のアドバイスは、全くスルーされてしまいました。
しかし今回やっと、祐巳ちゃんの気持ちが好転したようなので、いよいよ次回(バレンタイン企画?)には何らかの進展があるかと期待したいところです。
長々と失礼いたしました。
立候補者三名の立ち会い演説内容がきちんと記述されている
「立候補者四名の立ち会い演説内容がきちんと記述されている」の間違いでした。
ちなみに瞳子ちゃんの演説内容は、若さを強調する以外はすべて、祐巳ちゃんの主張内容を言い換えたに過ぎないように思えます。これは瞳子ちゃんの、祐巳ちゃんへの屈折した賛同だったかも知れません。
それ故思わず祐巳ちゃんも、つい拍手しそうになったのではないかと。
追加:2006/07/04 18:56