次に、時間を「無印」から順番に追っていきます。
(1)無印
まず、外圧をかけて志摩子から乃梨子にロザリオを渡させる、という事態の先例は、無印で蓉子が祥子に圧力をかけることで実現しました。
その「圧力をかける」ための手段としては、優という婚約者を持ってくるのが「ありがちな話」で簡便です。もちろん、他にも方法はあったと思いますが。
無印の時点ではまだ、無印までで、あるいはあと数冊と「銀杏の中の桜」再録でシリーズが打ち切りになってもかまわない、あるいは『夢の宮』のように1冊読みきりタイプでもよさそう、という意図が見受けられます。
祐巳はここで出てきたわけですが、瞳子の姉になる可能性を、最終的に実現させるかどうかは別として、残しておかなければなりません。そこで、半年間で急成長するという形になりました。テレビアニメ版『美少女戦士セーラームーン』シリーズに似ているようにも思います。
(セーラームーンをご存じない方は、最初の2年間を全部追いかけるのは大変ですから、『映画版 美少女戦士セーラームーンR』(61分)だけでもご覧になってください。ちなみにこの作品、英訳版には「Promise of the Rose」という副題がついています。)
(2)『黄薔薇革命』
薔薇さまは、その妹であっても何がしかの負担がかかる、つぼみは花を咲かせることが期待されている、ということを明示した作品です。これによって、志摩子が乃梨子にロザリオを渡すことをためらう理由ができますし、無印でゴールインした祥子と祐巳が将来仲違いするシーン(=「レイニーブルー」)のための材料も提供できます。
なお、この巻のラストシーンは、元気になった由乃が念願かなって令と肩を並べて歩くシーン(これは「チャオ ソレッラ!」でやっと出てくる)ではなく、祥子と祐巳のシーンです。このあたりから、シリーズ化が規定路線になった、と考えるべきでしょう。
(3)「白き花びら」
<#754> で、志摩子が白薔薇さまを退位した場合に
志摩子が乃梨子と二人だけの世界に閉じこもってしまう危険性をはらんでいます。
と書きました。それを完全に封じたのが「白き花びら」です。
ここまででやっと、「ロザリオの滴」の方向性がひとつに固まりました。
なお、「白き花びら」を含む『いばらの森』一冊の副産物が、薔薇さまが生徒指導室に呼び出されるという「黄薔薇まっしぐら」と、聖と志摩子はよく似た精神構造の持ち主だ、という設定です。
(4)「ロサ・カニーナ」
これは、静という「志摩子相手に割と自由に動ける駒」をひとつ確保するのと、聖と志摩子の関係を詰めていくという意図で書かれたものでしょう。
(5)〜(7)『ウァレンティーヌスの贈り物・前後編』『いとしき歳月・前編』
このへんは、書き方にかなり高い自由度があります。しかし、今の形に作ったことから、「片手だけつないで」までが割と自然な形に構成されました。
(8)『いとしき歳月・後編』
「will」では、聖については、無印から育ててきた祐巳の設定が活きた形になりました。一方で蓉子については、乃梨子が山百合会と大学受験を両立させるための布石になっているように思います。「いつしか年も」での「蓉子=努力家」という描写も、蓉子を乃梨子と重ね合わせるためのように思います。
以上が揃って、やっと「ロザリオの滴」を出すことができました。副産物として「レイニーブルー」『パラソルをさして』も出ました。
だから、その次の『子羊たちの休暇』が駄作(だと個人的には思う。特に後半)なのは、駒切れなのに無理に物語を作ろうとしたから、だと思います。